「押尾コータロー featuring ウィリアム・アッカーマン 2018」ライブレポート

2018年7月15日

artist


2018年7月7日、7月8日、7月13日、7月14日の4日間に渡り(ステージ数は計8回!)、ニューエイジ系国内ギタリストの雄・押尾コータローさんとの共演としてWilliam Ackermanさんの来日ツアー「押尾コータロー featuring ウィリアム・アッカーマン」が行われました。

今回はその東京公演の、セットリストも含めたレポートをお届けします。

押尾さんとAckermanさんの共演は2016年の奈良・春日大社での奉納演奏以来。そのときから交わされていた熱い友情が輝く、素晴らしいステージとなりました。

押尾さんのソロ演奏から公演はスタート。国内のソロギター界のトップを走り続けるその実力で、圧巻のナンバーを次々と繰り出します。(私が押尾さんの曲に疎いせいで、ご本人が曲紹介をされた『Legend ~時の英雄たち~』と『MOTHER』以外の演奏は曲名不明です…… ご存知の方がいましたら是非お教えください!)
合間に自身のために用意されたカクテルを手に「かんぱーい!」と場を和ませたりと(会場となったBillboard Live TOKYOは、食事を楽しみながら音楽を鑑賞できる劇場です)、そのMCにも彼の和やかな人柄が表れていました。とりわけ、Windham Hillについて彼が興奮ぎみに語る姿が印象的で、その顔つきはまるで、夢中になることを見つけた少年のよう。多くのWindham Hillファンと同じく、彼も心からWindham Hillの音楽を愛していることが伝わってきました。
追記:多くの方々から情報をいただき、演奏されていたのは『蜃気楼』で、また大阪を含めた他の公演では『彼方へ』『Together!!!』『Birthday』が演奏されていたということがわかりました。情報のご提供、ありがとうございました。

ソロ演奏を終えた押尾さんの紹介で、ついにAckermanさんが登場。押尾さんとのデュオで、レーベルメイトであった故・Michael Hedgesさんにまつわる思い入れのある『Unconditional』を披露します。Ackermanさんの使用ギターはもちろん、Hedgesさんが彼にプレゼントした思い出のパーラーギターです。(このエピソードについては過去のインタビューにて詳細が語られています)
それまで押尾さんが演出していたポップな盛り上がりの雰囲気が、瞬く間に絵画的な美しい空間へと変貌を遂げた瞬間でした。シンプルで音数が少ないにも係わらず、なぜか豊潤に感じられる“アッカーマン節”が会場に響き渡り、オーディエンスが息を飲みます。

そして、満を持してのAckermanさんのソロ演奏へ。彼渾身の名曲『The Impending Death Of The Virgin Spirit』が、眠らぬ街・東京の喧騒を聴衆から消し去ります。心に刺さるのは、ただひたすらに儚い、果てしなく純真な旋律のみ。演奏中、「今はこれ以外もう何もいらない……」と多くの観客が感じていたはずです。

続いて、再び押尾さんとのデュオとなりますが、なんと押尾さんの手には先ほどのHedgesさんのパーラーギターが! さらにAckermanさんが彼の代表曲『Bricklayer's Beautiful Daughter』を10年ぶりに演奏すると解説が入り、オーディエンスがよりいっそう沸きあがります。ただし、メンタル的な負担から途中のミスを許してほしいとのこと。しかし、そこはさすが押尾さん、「僕も本番でよくミスしてるけどね(笑)」と場を和ませてから演奏を始めます。
ファンの間でも人気の同曲を、日本公演を機に解禁してくれた想いに胸が熱くなるなか、会場は再び彼の音空間へと誘われます。押尾さんはあくまでもサポートに徹し最小限の音使いで演奏。Ackermanさんが奏でる何物にも代えがたい珠玉の残響が、穏やかで温かくそれでいて切ない、至高の風景を描き出します。ギターミュージックという垣根を超えた、美しく幻想的なひとときでした。
杞憂だったようで、ミスなく演奏は終了。「大丈夫じゃん」と押尾さんが笑顔で一言漏らし、Ackermanさんが渾身のガッツポーズ。余程嬉しかったのか、はたまた会場が笑いに包まれたのを美味しく感じたのか、「I'm going home.(満足したから帰る)」と片づけを始めて、押尾さんに「まだ曲あるから!」と止められる光景がまた会場に笑いを誘います。

押尾さんからの紹介で、Ackermanさんが信頼を寄せる実力派アーティスト・Todd Bostonさんがいよいよ登壇。3人が揃ったところで、押尾さんから映画『植村直己物語』についての説明がされ、その劇中曲であるAckermanさんの『Processional』の演奏が始まります。春日大社では三橋貴風さんの尺八を交えて披露された同曲ですが、今回はToddさんのフルートとAckermanさんと押尾さんのギターよるアンサンブルという編成でした。尺八にも聞こえるオーダーメイドの竹製のフルートの音色に、誰もが聴き入っていました。

ここで、Ackermanさんが演奏席を離れ、押尾さんとToddさんのデュオ演奏がスタート。Toddさんの曲である『Celtic Heart』が2人の手により奏でられます。Toddさんがルーパーを駆使して同曲をソロ演奏する動画が記憶にあったのですが、デュオ編成ということで、先ほどのお手製のフルートも活用した非常にアグレッシブなバージョンのセッションを披露。Ackermanさんとの演奏では控えていた十八番の連続タッピングハーモニクスを押尾さんが遺憾なく発揮し、その応酬にToddさんのギターさばきも負けません。同世代のギタリスト同士通じるものがあるのか、非常に息の合った素晴らしい共演を聴かせてくれました。

会場が興奮に包まれるなか、Ackermanさんが再び登場。3人編成での、Ackermanさんの『Visiting』の演奏が始まります。原曲のリリコンのパートを、春日大社での奉納演奏では貴風さんの尺八が担当していましたが、今回はToddさんのフルートが担当。そして、春日大社でToddさんが弾いていたアコースティックベース(原曲は名手・Michael Manringさんのフレットレスベース)を押尾さんが奏でます。「押尾さんがベース!?」と驚く方も多いかもしれませんが、押尾さんはもともとはバンドでエレキベースを弾いていたという話を押尾さんのファンから昔聞いた覚えが……
Windham Hillを代表する一曲であり、「僕も大好きな曲なので、完全再現を目指しました」と話す押尾さん。その言葉に偽りなく、原曲のフレーズにかなり忠実なベース演奏でした(フレッテッドベースでハイフレットがかなり弾きにくそうでしたが……)。一方のToddさんは、原曲にこだわらず、自身のフルートの独自の音色を活かした伸びやかな演奏を披露。その共演は原曲とはまた異なる美しい世界観を創出していて、「これがこれからのWindham Hillだ!」とバトンを受け取った決意のようなものを感じました。そんな2人に挟まれ演奏するAckermanさんの表情も、いつもの彼の演奏スタイルで固く目を閉じていましたが、どこか笑顔だった気がします。

「次で最後です」と押尾さんが言い、ギタートリオ編成でAckermanさんの『Hawk Circle』の演奏を開始。Ackermanさんの叙情的な演奏を殺すことなく、押尾さんとToddさんがしっかりと彼をサポートします。それぞれのプレイスタイルが上手く融合し、同曲の持つ緊張感を活かした極上のアンサンブルを奏でてくれました。

アンコールでは、ステージ後ろの巨大カーテンがオープン。Billboard Live TOKYOのウリである東京都心の美しい夜景をバックにした舞台にて(当日は晴天に恵まれかなり映える光景だったので、欲を言えば最初からこのセットが良かった!)、押尾さんの『ナユタ』の演奏が始まります。デュオの相手は、彼の心の師でもあるAckermanさんが務めます。「ウィルがいなかったら今の自分はいない」と語る国内屈指のギタープレイヤーと、「押尾のおかげで今回のライブが実現した」と語る伝説のギタープレイヤーの、本ステージ最後の共演です。
正直、押尾さんの楽曲にAckermanさんが加わるのはかなり驚きました。押尾さん自身Windhan Hillの影響は認めていますし(彼の『HARD RAIN』を聴いたときに『Ignition』を連想したWindhan Hillファンは私だけではないはず)、Ackermanさんも『ナユタ』を気に入っていると話しますが、それにしても作風が違うからです。派手なテクニックを抜きにしたプレイスタイルでも、ミュートを頻繁に駆使する押尾さんと、開放弦を活かすAckermanさんでは全く違います。どちらかと言えば、同曲は冒頭しかり他レーベルのBilly McLaughlinさんに雰囲気が近い気が…… しかし、そんな無粋な詮索を覆す、非常に美しい共演が繰り広げられました。何と言っても、Ackermanさんの存在感。もちろん押尾さんのソロでの原曲も素晴らしいですが、Ackermanさんのフレーズが加わることで、あっという間に至上のWindhan Hillサウンドへと変わったのです。テクニカルなプレイは一切ありませんが、その繊細な一音一音が、全てを抱擁するかのような温かさをもっていました。もはや全くもって言葉にしきれていないのですが、聴く者を魅了する不思議な魔法を、やはり彼は扱えるのです。それこそが、押尾さんやToddさんのような類いまれなるアーティストたちを惹きつけてやまない所以なのでしょう。それはリスナーにとっても同じです。スタンディングオベーションでの大喝采で幕を閉じた今回の公演がそのことを証明しています。
アンコールでの2人の音色は、聴衆たちに夢のようなひとときを与えたまま、東京の夜空へと消えていきました。しかし、その美しいひとときは、永遠となって観客全員の心に溶け込んだはずです。一生忘れられないステージでした。
数十年前のWindham Hillブーム時以来となる東京公演で、その興奮も相まってかバックの夜景を振り返り両手を広げ「Tokyo!」と歓喜するAckermanさんの姿も、彼のファンとしてとても嬉しかったです。

前回のAckermanさんの来日公演から約2年の歳月を経て、今回の公演は実現されました。
今回もまた、スタッフの方々をはじめ、多くの方々のご尽力があったことは言うまでもありません。
本記事をとおして、この素晴らしい体験をより多くの方々に知っていただけることが、彼の次回の来日公演に繋がる一助となったら幸いです。