押尾コータロー『ナユタ feat. William Ackerman』のTAB譜つき解説(ウィリアム・アッカーマンのパート)

2019年3月23日

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既にご存知の方も多いかもしれませんが、人気ギタリスト・押尾コータローさんが先月リリースした最新アルバム『Encounter』には、彼とWindham Hill創始者・Will Ackermanさんのデュオ演奏『ナユタ feat. William Ackerman』が収録されています。(「初耳!」という方は、是非お買い求めを!)

この演奏は、先に行われた2人の共演コンサートがきっかけで、その際には公演の最後を締めくくる一曲として披露されました。今回のアルバムでも、その最後を飾る一曲となっています。

今回はそのことを記念して、本曲におけるAckermanさんのフレーズをいくつか抜粋し、彼の奏法に迫っていきます。かねてより押尾さんは「ウィルの真骨頂は、鉄製のフィンガーピックによる固い音だ!」という旨を述べていますが、もちろんそれだけではなく、Ackermanさんの演奏はフレーズも非常に印象的です。本曲でも、彼らしい素晴らしいフレーズの数々を堪能することができます。しかしながら、国内で彼の演奏の特徴について解説している文献及びサイトは、残念なことに少数です。そのため、本稿にて少しでもみなさんにお伝えすることができればと思います。

また、本稿のタブ譜を活用すれば、Ackermanさんの雰囲気をそれっぽく再現できるため、「『ナユタ』をギター仲間とデュオで演奏したい!」という方も是非ご一読いただけると嬉しいです。

なお、タブ譜のチューニングは、押尾さんのパートと同じ「C#G#D#G#CD#」で採譜しています。

0:37~


Ackermanさんの手癖の特徴として第一に挙げられるのは、余韻を残すハンマリングとプリングのアプローチです。彼のソロ曲や、本曲のような他のアーティストとの共演でも頻繁に似たフレーズを聞くことができます。本曲中でも、フレットこそ変われど何度も登場します。

多くのギタリストにとっては、ハンマリングとプリングはフレーズをスムーズに聞かせるための奏法ですが、Ackermanさんはタメ気味(レイドバックと言ったほうが適当?)に使用します。「洞窟にこだまする残響」という表現が上手くあてはまるように思えます(彼の『Three Observations Of One Ocean』という曲がとくに顕著です)。規則的なリズムを重視しない彼の音楽性にマッチしたアプローチと言えます。

1:21~


低音と高音をゆっくりと行き来する、彼の十八番のフレーズ構築法が活かされています。

他のプロギタリストなら躊躇してしまいそうなほどにシンプルですが、じっくりと味わいたい趣があります。ゆったりとしたスライドが非常に心地良いです。

2:47~、3:01~


押尾さんがリードをAckermanさんに譲るセクションです。演奏が前に出るため当然と言えば当然ですが、Ackermanさんの手癖一色です。”ウィル・アッカーマン節”を存分に楽しめます。

個人的に妙技と感じたのは、6小節目で4弦2フレットをベース音とするアプローチ。とっさのアドリブかもしれませんが、この曲構成からすると大胆に思えます。感情の内側から刺さるこの音使いは、まさに素晴らしいの一言です。

3:34~


こちらも、彼らしいハンマリングとプリングが光るフレーズです。

彼の演奏には、(彼自身がどう思っているのかは別として)「ギターが歌っている!」という表現は合わないと思っています。まさに、彼が目指したWindham Hillのコンセプトと同じく、純真無垢で作りこまれていない音使い…… 「泣きのギター」のようにエモーショナルではなくても、雨の音などのような安心感を携えています。一方で、彼の提唱する「サイコアコースティック」なる人間味も感じられる点は、彼が「天才」と支持される所以です。

4:22~、4:36~


クライマックスへの駆け上がりのセクションです。低音弦を同時に鳴らして音に厚みを持たせています。なお、タブ譜には記載すべきではないほど弱くですが、原曲では開放弦も適宜鳴らしています。ハッキリと弾くとニュアンスが損なわれるので工夫が必要ですが、音の厚みが増すので演奏の際は是非お試しを。彼は音の強弱も非常に大切にするため、同様のアプローチは本曲に限らず登場します。

4:53~、5:22~


アウトロを飾るフレーズで、左の小節が「4:53~」で、右の小節が「5:22~」です。

さりげなくも音の選び方にセンスの良さが如実に表れており、アウトロにふさわしく、私たちの心に余韻を残すフレーズです。